家具も見えないところに魂が宿る!?
私は高校を卒業して直ぐにソファの張り職人になりました。
キツかったですね、職人に付いて技術を習得するのは。
教えてくれた人はかなりのベテランでしたが、とにかく言葉がキツくて当時は結構メンタルをやられていました。
焦って仕事中に爪にタッカーの針を何度打ち込んだことか・・痛いんですよ、指先って神経が集中していますからね。
張り職人の仕事は決して楽ではなかったですが、そこで学んだ事はのちに大いに役立っています。
当時、張り職人に学び一番感銘を受けたのは『職人の技量はソファの裏を見れば分かる』ということ。
ソファの裏側なんてわざわざお客さんは見ないっしょ!
と当時の甘ちゃんの私は思っていたわけでして・・しかしその後に張り職人を4年で辞めて家具商社に入り、ある出来事をきっかけに私の考えは180度変わりました。
『あの職人が言ってたこと、こういうことか・・』そう思ったきっかけは、ちょうどいくつかのソファを輸入して日本で展開するかを決める企画開発会議の時のこと。
私は商社に入社して右も左も分からない新人です。
ショールームにずらりと並べられたソファたち。全て東南アジアから集められたものです。
静かなショールームに10台以上並んでいます。会社の売上に関わることですし、ピリリとした空気が漂います。
もし、採用された商品が売れなかったら大量の不良在庫を抱えて最終的に赤字で処分する事になります・・
『お、これ良いじゃない。張り地の展開どうする?』
『コレ、絶対売れるよ!安いし』
など先輩社員たちが会話していました。お前もなんか意見言えよ、と当時の先輩に言われましたが、マーケティングの知識が全くない私はぐうの音も出ません。
『良いですね〜』というのが関の山。『どこが良いんだよ?』という問いに『色が良いですね!』とか言う始末。
さっさとこの場から逃げたい。
いや、だって無理があります。もし新人の僕の適当な意見が通って採用になったら?挙げ句の果てに大量に売れ残ったら?
何のスキルもない、判断基準もない入社して1週間の社員に聞くには無茶がありすぎる。
私は張りについてはある程度の技術は習得していたので、ソファの多少の事は分かっても、デザイン、仕様と価格だけで売れるか売れないかの判断は全く出来なかったんですね。
あーでもない、こーでもないとソファを囲んで立ち話をしているところ、隣にいた女性社員が『痛った〜い!』という雄叫びびを上げました。
見ると指から出血しておるではないか!
え?家具で怪我する!?と何も知らない若造の私はビックリしました。
それで、怪我をしたソファをひっくり返して裏面を見ました。
『なんじゃこりゃ?』私は目を疑いました。
あまりのタッカー打ちの雑さに。タッカー針の片方が浮いてしまっていて、女性社員の指に刺さってしまったんですね。
裏側は誰も見やしないから、適当で良いだろう、うへへ。というレベルの低いモラルもへったくれもない中国の工員が張ったんでしょう。
あの時、職人が言った意味が理解できた瞬間でした。
もちろん、そのソファは不採用。それからというもの、私はソファに限らず家具のサンプルをリサーチする時は必ず裏側まで見るようにしています。
『見えないところに魂が宿る』
コレ、良い言葉です。見えないところはお客様も使ってて気になりませんし、職人も手を抜けるところかも知れません。
けれど見えないところこそ、作り手のモノづくりに対する姿勢がとても伝わるんですよね。
私は安くても高級でも輸入だろうが関係なく家具ならなんでも好きです。
ただ、安かろう悪かろうの家具は嫌いです。怪我してしまう作りの家具なんぞ危険極まりない。
輸入品で値段は安くても丁寧に作られた家具はあります。
逆に値段が高くて裏側を見ると手を抜いてるな〜と感じる場合もあります。
お客様が見ても別に気にならないところも気になってしまう、いわば職業病のようなものかも知れませんね。